園だより(2016年11月)
伝統工芸の苦悩
夏が去って秋を飛び越えて冬、そうかと思えば、急に夏に舞い戻る、そんな季節が特徴の今年の日本の秋、いよいよ最終章の11月を迎えました。奥ゆかしい表現の霜月、と比較して、November, 9番目の月の表記、季節のはっきりしない外国では数字での表現の方が合理的で、生活の理にかなったものであった。さて、先月の運動会、どのような感想をお持ちだったでしょうか。いろいろ批判的なご意見もあったかもしれませんが、私個人的には、我田引水ですが、子どもたちの大きな生長が見られた立派な運動会だったと思います。頼りなさそうなりんご組・年少組さん、ちょっと大きくなってお兄ちゃん、お姉ちゃんぶりを発揮しようとしている年中組さん、そして最上級学年の根性と意地を見せて精一杯頑張った年長組さん、どの学年も素敵でした。先生もこの日の為に紫外線とか、肌が傷むとか、そんなことを忘れて、走り回って指導に当たりました。それに立派に答えた子供たちの姿は本当に何物にも代えがたい美しさでした。心から取り組んでいる、やらされているのではなくて、自ら進んで体で表現していた貴重な輝きでした。年長さんの組体は見られてどうでしたか。予行ではうまくいったのに本番では失敗して悔しがっている先生もいました。うちの子は土台ばっかりと言っているお母さんもいました。しかしみんな力を合わせて完成したその姿、形、音楽の素晴らしい効果、誰の目にも涙を誘う要素が揃っていました。私も何回流れ落ちる涙を人に知られずに拭いたかわかりません。子どもたちの頑張り、先生たちのたゆまない努力、そして体操の先生の指導力、感性に訴え、共鳴をもたらした音楽、全てが相まって大きな成果を生み出したのです。運動会は昨年まで保護者の皆様から高い評価を頂いていました。それが今年は駄目だったと言われたくない、先生の頑張りは必死でした。それが過去から受け継いできた一つの大切な伝統だと信じています。
さて、毎年の事ですが、今年は石川県金沢市で第32回全日本私立幼稚園連合会設置者・園長全国研修大会が600人の出席者の下で開催されました。文部科学省から幼児教育課長と私学助成課長の二人が出席されて「全ての子どもに質の高い幼児教育を」について問題を提起され、その財政的裏付けの話もされました。近年幼児教育の無償化が言われ、26,27,28年度予算で積極的に取り組みがなされ、就園奨励補助を通じて保護者負担の軽減に取り組んでこられました。又10年に一度の幼稚園教育要領の改訂も来る30年に改訂され、そこでは幼少の連携、接続の大切さが話されました。というのは、幼稚園では立派に育っているのに、小学校では0ベースにして扱うために、その接続がうまくいっていないからです。又幼稚園では次の10項目が5歳児終了時までに育ってほしい具体的な姿と言われました。 1.健康な心と体 2.自立心 3.協調性 4.道徳性・規範意識の芽生え 5.社会生活との関わり 6.思考力の芽生え 7.自然との関わり・生命尊重 8.数量・図形、文字などへの関心・感覚 9.言葉による伝え合い 10.豊かな感性と表現である。又認定こども園に関しては平成27年度までに新制度に移行した園は全体の23.2%の1889園であり、平成28年度で2387園(29.2%)、29年度は637園が移行の予定。この大会で「不易流行、つなぐこと、変わること」をテーマに石川の伝統工芸品の九谷赤絵作家の福島武山氏と九谷焼作家の四代徳田八十吉(女性)氏の話があり、興味深かった。前者は一代で石川県指定無形文化財保持者になった人であり、その赤い色を使った作品は目を見張る立派なものであった。あくまで謙虚な姿勢を貫き、「お客様に育てられた、支えてくれるお客様がいることに感謝しているが、近年使ってくれる人が高齢者になり、少なくなってきた」ことを心配されていました。作品のテーマは森羅万象であり、自分が求めているのは全て自然界から得られると説明された。三代徳田八十吉をひきついだ四代は三代の長女であり、父の命と引き換えにいい作品が生まれたことに感謝し、本人がどん底の時にいつもの物が美しく見えたと言い、又ふっとした時にアイデアが浮かぶと付け加えた。オギャと生まれた時から伝統工芸が好きな人はいない、徐々に伝統工芸は好きになるものであり、又愛された人は愛することが出来、九谷焼を通じて世の中をhappyにしたいと説明されたのは印象的であった。しかし九谷焼に限らない事であるが、伝統工芸の継承、発展は国の支援がない限り今後難しいとの思いがよぎった。
九谷焼とは石川県南部で産する焼物。主として磁器に釉上着画したものが多い。