園だより(2019年2月)
el Camino de Santiago (サンチアゴへの道)
時刻は夜の11時過ぎ、イベリア航空3894便は着陸装置を出して、高度を下げているにもかかわらず、窓から見える景色は霧一色で何も見えない。突然の音で着陸を知り、機は濃い霧の中を滑走してターミナルに向かった。バルセロナ午後7時30分の出発だったが、途中マドリッドに寄航した為に倍以上の時間がかかった。50年以上前に大学でスペイン語を勉強して、この名前を何回も聞いていた。しかし私にとっては初めての地であった。サンチアゴ デ コンポステラ(Santiago de Compostela)、その地の名前であった。スペイン北西部、ポルトガルに接したガリシア地方の一都市に過ぎないが、9世紀に12使徒(ペテロ、マタイ、ヨハネ、ヤコブ、ユダ等が良く知られる)の一人聖ヤコブの遺骸が発見され、カトリック教徒にとっては三大聖地(エルサレム、ローマ、サンチアゴ)の一つになった。それ以降、スペインのイスラムに対する国土回復運動等で、この地が喧伝され、カトリック教徒が巡礼する都市になり、特にフランスからピレネー山脈を越え、スペイン北部を通ってサンチアゴに至る道は el Camino de Santiago と言われ、巡礼の道として良く知られ、現在は世界文化遺産として登録されている。フランスからピレネー山脈を越えて、貝殻のついた杖を持って1000km以上の道程を巡礼する人は何を求めて苦難の道を進んでいったのか?人の弱さを知る反面、神の強さを意識させるのだろうか?Santiago という名前は世界中で見受けられる。Santiago de Chile (チリ)、de Cuba(キューバ)、del Estero (アルゼンチン)、de los Caballeros (ドミニカ)のように、どこのSantiago か知るために、後ろにその国の名前や都市の名前をつける。ここも正式にはSantiago de Compostela だが、スペインでは Santiago といえば Compostela の事で、航空券にもSantiagoの記述しかない。さて、話がさかのぼって、無事ターミナルに到着後、タクシーに乗って霧の中、20分あまり山を下って、国が運営するホテル、パラドールに着いた。ここは15世紀に建設された建物で、昔は病院として使われていた古い建物、それなりの威容を誇る重厚な建物であった。ここまで来ると、さすがにアジア系の観光客はほとんどいない。日本人はよく来るせいか、私は日本人(ハポネス)と何回も聞かれた。人は皆親切(アマブレ)であった。建物は古いが快適なホテルで、料金もリーズナブルであった。ホテルの前は大きなオブラドイロ広場で、その前には巡礼の最終地、12世紀に建立され、その後増築された巡礼大聖堂(カテドラル、Catedral)が華麗で荘厳な趣で聳え立っていた。巡礼者達(Peregrinos a Santiago)はこの大聖堂に着いて、大きな感動と安堵と達成感を覚え、高揚とした気持ちで神の世界への入り口を意識したかもしれない。確たる宗教を持たない私でも確かに身震いするような気持ちになった。大聖堂の中に入った。中を一周させていただいた。時刻はちょうど12時前、疲れたので、祭壇の正面でなく、両サイドの長椅子の一番前に座った。ミサが何時にあるか知らなかった。まもなく神父やシスターが現れ、ミサが始まった。観光客がいたが、ほとんど信者であった。私はカトリックのマナーや礼儀作法を知らなかった。そして列の一番前であった。子どもでなく、遠い異国から来た年配者であった。その上、ミサのスペイン語は早い上に高尚で、あまり理解できなかった。はるか前方の信者がするようにその作法を真似たが、異教徒が同じ事をしても良いのかと自問自答しながらのミサの時間であった。最後に7人ほどの比較的若い修道士が出てきて、ボタフメイロ(botafumeiro, 香炉、特にサンチアゴ大聖堂の天井から吊るして揺らす巨大な香炉、この煙が身体にかかると幸運が来るといわれ、前列の私にもかかった。今年は私に幸運が来るのかな。)を前後左右に大きく揺らした。今日一日で何人の人が幸運をもらったのだろうか?ただ7人の修道士と思っていたが、実は彼らは学生のアルバイトかもしれない。ミサが終わると、同じ顔の若者が服を着替えて外に出て行った。そうだとすればこの世界でも人手不足なのだろうか。ブラックユーモアだろうか。逆に考えれば、ここは学生の町、だからアルバイトの口を提供しているのだろうか。天国への入り口はまだまだ現実のしがらみが多いのかもしれない。そんなことを考えながら、12月28日17時40分、マドリッド行きのイベリア航空3879便に乗った。
今月は三大行事の中でも大きな発表会、今は練習の真っ最中、是非ともお子様、お孫様の活躍をご堪能しにお越しください。心よりお待ちしています。2月、如月、今月も宜しくお願い申し上げます。